馬鹿野郎

弟が、死んでたんだよね。兄であるハズの僕の中で。
僕の定義する「死」ってのは「人の記憶から消え去ったとき」なんだ。
そう、忘れてたんだよ。自分に弟がいたことを。
そして世の光を一日も浴びないまま死んでいったことも。
母が悔しそうに涙を流してたことも、棺が小さくて軽かったことも。
全部、忘れてた。なんて軽薄かつ最低な男なんだ、僕は。
友人の父の死は覚えているのに、弟の死は覚えてない。
幼さゆえに脳の記憶機関が発達してなかったとか、そんな言い訳は通用しない。
「忘れていた自分を恨んでもしょうがない」と思う日が来るのだろうか。
そんな時が来て欲しくないと思う反面、早く忘れたがっている僕がいる。


過去の経験のみが信用できるという、己の哲学。
僕の、忘却の彼方には何も残っていないのさ。


追記:
死に定義なんてないことはわかってる。
けど、曖昧なのは嫌いなんだ。
無理にでも決定付けないと落ち着かないんだ。