顔無し仔猫と秋の夜・その1

仔猫を拾った。
バイト帰り、駐車場でにゃーにゃーとないていたのだ。
ここは危険だ、カラス達が獲物を探してうろつく街だ。
放っておくわけにもいかず、僕は仔猫を連れ帰った。
僕はこの仔猫をカイザーフェニックスと呼ぶことにする。
カイザーフェニックスは最初は慣れない環境に戸惑いの色を隠せず、
遠慮しがちな態度で、ベッドに尻をつけるのさえ躊躇い、
自分のカバンをベッドに敷いてその上に座るくらいだった。
しかしカイザーフェニックスの話を聴くにつれ打ち解けてきた。
このカイザーフェニックスは大魔王バーンとは何も関係は無く、
携帯電話にサンジのキーホルダーを2つ付けていたことから、
麦わら海賊団を慕っているのだということが良くわかった。
チョッパーは可愛いらしく、僕もチョッパーなのだが、
カイザーフェニックスは首を傾げるばかりで話が通じない。
ああ、きっとDj Premierも知らないんだなあ、と考えながらも、
フェイバリットを尋ねてみると、アン・ルイスだということだ。
まったくもってよくわからない。もう夜も遅いので、
カイザーフェニックスを僕のベッドに寝かせたあと僕は、
リビングのソファーで朝を待つかと、その足取りを止めたのは、
カイザーフェニックスの温かい手だった。
どうやら一緒にいてほしいらしい。
僕はカイザーフェニックスと一夜を共にした。