顔無し仔猫と秋の夜・その3

まだベッドは狭い。隣にはカイザーフェニックス。
でも広いベッドを想像したなら、寂しくなった。


今日は大学の講義も一時限しかないので、サボることにした。
カイザーフェニックスを1人残すわけにもいかない。
カイザーフェニックスは何をするでもなく、テレビを見るか、
僕を見るなりハグを要求するばかりで、それに応える僕も僕だけど、
僕の記憶には結局、丸一日ベッドで抱き合ってた覚えしかない。
あと、カイザーフェニックスは小池徹平が好きだとか。


16時、カイザーフェニックスが眠そうにうとうとしている間に、
タワレコに向かう。今日はCDの入荷日だ。買ったものは後程。
そうして一時間ほどして帰ってくると、ベッドから寂しそうに、
僕を見つめる目があった。カイザーフェニックスは僕を
ベッドに引きずり込むなり、ずっと抱きしめ続けていた。
僕はカイザーフェニックスにとって大きな存在になりすぎていた。
そんなカイザーフェニックスに、いつまでうちにいるのかを、
尋ねるのはあまりにも残酷なことのように思え、躊躇われた。
なによりまず、今晩どうするのかさえわかっていない。
母も夕食(鰻!)を+1人分用意すべきか否かで悩んでいた。
母まで巻き込むのは流石に申し訳ないので恐る恐る尋ねてみた。
「今夜もうちに泊まるなら、鰻を食べられるけど、鰻は好き?」
まるで鰻で釣るかのような尋ね方だった、しかしそれも意味は無く、
「鰻は嫌いじゃない、でも、鰻よりも貴方が好き、貴方といたい」
ということだそうだ。僕は先の発言で、カイザーフェニックスの気持ちを
踏みにじっていたことに罪悪感を抱いた。ああ、この子は素直だ。


こうして僕は3日間、カイザーフェニックスに溺れ続け、
甘え続け、何もしない堕落した日々が続いていた。
カイザーフェニックスは、どうしてここにいるのだろう。