なーちゃん/手紙

お別れだった。別にただのバイト仲間さ。でも出会って一年、
僕の思ってた以上に大きい存在になっていたことに気付かされた。
もう会えないのかと思うと、途轍もない寂しさが体から抜け落ちた。
いつのまにやら、ねぇ。ここまで悲しいとは思いもしなかったよ。


彼女は就職が決まったので、ここのバイトを辞めるということだ。
うん、そりゃ、いつまでもここにいるわけにもいかないだろうなあ。
僕があたりをきょろきょろ見回している間にも、彼女はいつも前を見ていた。


最後に言った「お疲れ様」は、いつもと同じ「お疲れ様」。
僕はもっと他に言いたいことがあったのかもしれないけど、
それさえもわからないままに、彼女は行ってしまった。
まあ、思い出してもそれは大したことじゃないんだろうけども、
ああ、今思い出した。


ありがとう、だ。しまった言い忘れてた。
最後の最後まで気の利かない男だなあ。
抱きしめたかったよ。でもそれは僕じゃあない。


出会ってくれて、ありがとう。
どうか、ご達者で。貴女の人生が、幸福であるよう。


さあ、今度は僕の番だ。ロスタイム、残すところ2ヶ月。
(ところで何でロスタイムがあるのだろう?僕は2月の時点で辞めてるはず)


少しずつ、こっそり抜け落ちては、先に行く人がいる。
同時に取り残される人も増える。こうして世界は回るし、
どんどん変わっていって、このサイクルの最後には、
総入れ替え、新しい世界が待っている。そしてまた繰り返す。
それは悲しいことなのかい?喜ばしいことでは無いのかい?
喜ばしいことだよ、でも僕は悲しいんだ、怖いんだ。
僕らが“確かにいた世界”がなくなってしまうことが、
僕らが共にした記憶の在り処がはっきりと形無い物になることが。


ああ、そっか。ここまで来てようやく気付いた。
それでも変わらないものは「家族」なんだってこと。
だからみんな、家族を、家庭を作っていくんだ。
そう思うと少しの安心と、葛藤とが脳をめぐった。


“僕はもう何もしたくない。全部いらない。
 此の人生の決着は既に付いている。後は適当にのたれ死ぬさ”


なんて言ってる場合じゃないよなあ。
持ち物全て手放して、バイト辞めて大学辞めて、
最後の長い旅を始めようと思っていたのだけれども、
もう少しだけなら、
此の人生も頑張る価値はあるのかもしれない。
あと少しだけ、少しだけ、頑張ってみよう。
最後に泣くか笑うかは、まだわからない、はず。
今はずっと泣いて眠る日々が続いてるけれども、
いつかふと、安らかな眠りにつける日がくるかもしれない。


でもやっぱり、僕がこの人生に欲しいのはたったひとつで、
手に入らない人生ならいらないっていうくらい、
僕には好きな人がいる。寝ても覚めても、その人のことを考えてる。
今日から2週間の間、会えない人。その2週間を、僕はどう過ごそう。
毎日のように会いに行ってたんだ。その日課は何処に行くのだろう。
僕の好きな人の幸せには僕はいらないんだろうけども、
僕の幸せにはその人が必要だ。そして僕はその人の幸せを願うんだ。
これはなんという我儘だろう!


こんなにも人と接することが辛いなら、もう誰とも会いたくないのに、
それでも僕は、恋をするんだ。そして恋に殺されたんだ。
死ぬほど好きってことがようやくわかったよ。これは死ねるよなあ。


それが僕の、この半年間、全く曲を作らなかった理由。
DAM-T 3rd mini album「mille-feuille logics」、今夏発売予定。


万が一にも待ってくれてる方がいたのなら、待たせてごめんね。