熊本からタワレコが消えた日

丁度その日、僕は京都にいて行くことができなかった。


2011年8月21日、熊本で唯一のタワーレコードが閉店した。
“確かに残念だけど、たかがCDショップが1店舗潰れたくらいで”
と思う人がいるかもしれない。
それが熊本ではこれが大きな意味を持つのだ。



熊本にはどういうわけか、昔からHMVがない。
というよりも、HMVは現時点で九州に1店舗しかない。
つまり、全国チェーンの大型CD専門店がタワレコしかないのだ。


もちろんTSUTAYAはあちこちにある。
しかしそれはどこもCDショップとしてのTSUTAYAではなく、
書店の、レンタルショップのTSUTAYAという在り方なのだ。
現に書籍・レンタルしか取り扱っていない店舗が非常に多い。
CD売り場があったとしても、店の隅っこに追いやられている。
新作コーナーにはオリコンランキング20位以内、
よくて30位以内を狙えるような作品しか並んでいない。
売り場のスペースが無いんだから当然の運営方針だが、
僕らの望んでいる音楽は、そこにはない。


そういうJ-POPを全く聴かないというわけじゃない。
テレビのタイアップで気になる音楽が流れたらチェックする。
だが、TSUYATAにはそれさえも無かったりするのだ。



1つ、熊本の中心街には3フロアを使った大型のTSUTAYAがある。
1Fが書籍、2Fが書籍&CD・DVD、3Fがレンタル・ゲーム売り場だ。
ここは広いだけあってCDの品揃えも他のTSUTAYAの比じゃない。
マイナーなJ-POPや洋楽はもちろん、ジャズもそこそこ手に入る。
それでも、ヒップホップや日本語ラップへの風当たりは冷たい。
洋楽はメインストリームと日本人向けのメロウ・ジャジー盤、
この辺りを仕入れるだけで売り場が埋まってしまうだろう。
日本語ラップも聴きやすいラップ、ステレオタイプのラップなど、
そういったメジャーな新譜は並ぶ。
しかし深く掘り下げようとするともうそういったCDは置いてない。
環ROYがあるかどうか。恐らくここがボーダーだ。


正直、日本語ラップヘッズを満足させることはできない。



っと、話が逸れてしまった。つまりまとめると、
ミュージックジャンキーをそこそこ満足させる品揃えの店、
それは音楽の専門店・タワーレコードしかなかったのだ。
熊本唯一のCD専門店がなくなったということは、
熊本の音楽シーンが死んだも同然だ。
なにせ少し深く入り込んで音楽を聴いているなら、
そういった音楽を買うことが出来る店が熊本にはないのだ。



まあ通販って手があるんだけども。


そしてタワレコも恐らくこの通販につぶされた。
DVD付のCDは20%近く割引され、輸入盤の価格は安い、
品揃えは那由他の彼方、物理的陳列に無理があるほど。
在庫・価格どちらのを持ってしてもAmazon.co.jpには敵わない。
タワレコなどの店舗販売の唯一のメリットと言えば、
欲しいCDがその場ですぐに手に入るということだが、
価格と品揃えの2点に対抗できる要素とは言い難い。
最近ではAmazon.co.jpは大阪・愛知に倉庫を増設し、
注文した翌日、または翌々日には商品が届くようになった。



現に僕はAmazon.co.jpを頻繁に利用している。
タワレコで2000円前後で売ってある輸入盤CDが、
アマゾンなら1000円前後+2点お買い上げで1割引だ。
100円200円ならともかく、倍近くも価格が違うとお話にもならない。
邦楽に関してはタワレコ特典などがあったりするので、
よく利用していたが、その特典も全作品にあるわけではない。
日本語ラップならタワレコ特典がなくともwenod特典だってある。
結局、本来送料分ロスしているはずの通販の方がお得になる。



熊本の音楽を殺したのは僕かもしれない。
欲しいCDをタワレコで見つけ、アマゾンで価格を調べていなかったら、
もっと多くのCDをタワレコで買っていただろう。


まだ通販に抵抗があった頃にタワレコで買った2400円の輸入盤は、
当時は1200円、今は885円でアマゾンに並んでいる。
最近の話だとタワレコが一部輸入盤888円均一セールを始めたが、
その数日後、アマゾンから輸入盤881円均一セールのメールが届いた。
戦略的にも、フットワークの軽さもタワレコの店舗販売は
Amazon.co.jpの通販に負けていた。
それでもタワレコがなくなってしまった事に負い目を感じるのは、
損得を秤にかけ安易に動いてしまった軽率さがあるからだろう。


ないと困るんだ。音楽はタワレコで学んだ。
棚の隅から隅まで、ほぼ全ジャンルのアーティストに目を通した。
その中から気になるアーティストを見つけ、試聴し、開拓していた。
毎週火曜日になると、各ジャンルの新譜コーナーを見て周り、
どんなアーティストが新作をリリースしているのかチェックしていた。
Amazonではそれが出来ない。棚の隅から隅まで?新譜コーナー?
ジャンルも新旧もごちゃ混ぜになっているネットの世界だ。
いや、出来なくはないだろう。慣れない事に手を出せないだけだ。
そしてこれからはそういう世界で生きていかなければならない。



キャンペーン中、ポイント3倍を付け忘れた店員さん、
特典について問い合わせて慌てふためいてた店員さん、
1点しか在庫の無いCDを落としてケースを割ってしまった店員さん、
防犯タグを外すと同時にパッケージまで開けてしまった店員さん、
今となってはなにもかもが懐かしい。



タワーレコード熊本パルコ店、
長い間、お疲れ様でした。